日々のネット生活で、「インターネットが遅い」と感じることがあるかもしれません。しかし、ネットワークの「速さ」とは具体的に何を指しているのでしょうか?今回は、ネットワークの速さについて、少し立ち止まって考えてみましょう。
物理的なネットワークの速さは一定
データのやり取りは目に見えませんが、一度インターネット通信の世界をイメージしてみてください。ネットワークが速い、遅いと言いますが、あなたのパソコンが受け取るデータと他の人が受け取るデータの物理的な移動速度は異なるのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。
私たちがインターネットを利用するとき、実際にはデータは主に「光」や「電気」によって伝送されています。たとえば、光ファイバーを利用した通信では、データは光の形で高速にやりとりされます。また、家の中のLANケーブル(UTPケーブル)を使う場合は、電気信号がデータを運んでいます。
ここで重要なのは、光も電気も物理的な速度はほぼ一定だということです。光は真空中では秒速約30万キロメートル、電気はケーブル内をほぼ光速に近いスピードで伝わります。これらの物理的な特性は変わらないため、「光や電気の速さ」は、理論的には常に一定です。では、なぜ私たちがインターネットを使用するときに「速い」「遅い」と感じるのでしょうか?
ネットワークの速さは「帯域幅」で決まる
ここで登場するのがネットワーク帯域(Bandwidth)です。ネットワークの速さとは、実際にはどれだけの量のデータが同時に送受信できるか、つまり帯域幅に依存しています。よく光回線の速さで1Gbpsや10Gbpsという風に表現されますが、これらが帯域幅です。帯域幅が広ければ、より多くのデータが同時に流れることができ、結果として通信が「速く」感じられます。一方、帯域幅が狭いと、データの流れが制限されるため、通信速度が遅くなったと感じることがあります。つまり、”ネットワークが速い”ということは”ネットワーク帯域幅が大きい”ということと同義なのです。
道路に例えると
帯域幅をより理解しやすくするために、よく使われるのが「道路」に例える説明です。例えば、1車線しかない道路では同時に通れる車の数が限られているため、渋滞が発生しやすくなります。しかし、複数車線の高速道路であれば、同時に多くの車が通行できるため、スムーズに流れることが可能です。
道路における車がデータ、車線の数が帯域幅に置き換えて考えてみてください。ネットワーク帯域幅が大きければ大きいほどたくさんのデータを送受信できるため、通信速度が速くなることがイメージできるかと思います。
帯域幅はどのように決まるのか
ここからは少し技術的な話をします。あなたが通信を行う際の帯域幅がどのように決まるかを考えてみましょう。帯域幅がどのように決まるかを理解するためには、通信が通るネットワーク経路全体を見ていく必要があります。ネットワーク全体をミクロな視点、マクロな視点、それぞれで見てみましょう。
ミクロな視点
ミクロな視点では、ネットワーク機器間やネットワーク機器自体に着目します。具体的には、ネットワーク機器間のスループット(処理速度)や接続方式、LANケーブルの規格などが帯域幅に影響を与えます。
1. ネットワーク機器間の帯域幅
有線接続の場合は以下の2要素によってネットワーク機器間の通信速度が変わります。
- ネットワーク機器のインターフェース速度
- LANケーブルの規格
インターフェースとは、ネットワーク機器のLANケーブルを接続する穴のことです。例えば1Gbpsの通信速度が出るように有線接続する場合は、ネットワーク機器のインターフェースが1Gbpsに対応して、なおかつLANケーブルも1Gbpsに対応していなければなりません。LANケーブルが100Mbpsまでしか対応していない場合は、たとえネットワーク機器側が10Gbpsに対応していたとしても100Mbpsの速度しか出すことはできません。
また、とても複雑なので詳細は割愛しますが、無線接続の場合はWi-Fiの規格(例: Wi-Fi 5, Wi-Fi 6)によって帯域幅は大きく変わると理解しておくのがよいでしょう。Wi-Fiの規格について一つ注意点があり、例えばWi-Fi 6の規格で接続したい場合は、無線ルータも接続するパソコンもどちらもWi-Fi 6に対応している必要があります。最近では家電量販店で、よくWi-Fi 6対応のルータが売られていますが、それに対応するパソコンやスマートフォンを持っていなければ恩恵は受けられません。有線接続と同じで、両方が同じ規格に対応していなければ速度は速くならないのです。
2. ネットワーク機器の処理能力
ルータやスイッチなどのネットワーク機器自体の処理速度(スループット)も重要です。ネットワーク機器は、データを転送する際の処理速度に影響を与えるため、処理能力が低いと通信のボトルネックになる可能性があります。ただし初級者の方はこちらはあまり気にしなくてもよいと考えています。市販のルータやスイッチは処理能力を公表していないケースもありますし、基本的に十分処理能力は高く作られているはずなので、ここを考えすぎる必要はありません。
マクロな視点
ミクロな構成を理解したところで次はマクロな視点でネットワークを見ていきましょう。マクロな視点でネットワーク全体の構成を考えることで、”ネットワークが遅い”という言葉の本質を理解することができます。
ネットワーク全体の帯域幅は、通信経路における各ミクロな構成で最も処理が遅い箇所によって決定します。通信経路で遅い部分が全く無ければあなたのネットワークは快適なものとなり、逆にとても遅い部分が1箇所でもあれば、そこがボトルネックとなり、ネットワーク全体が遅くなってしまいます。
先ほどの道路の例でイメージしてほしいのですが、ある部分がどれだけ車線数が多くても一箇所だけ単線だった場合はそこを起点に渋滞が発生しますよね?ネットワークもそれと同じで、最も処理が遅い箇所がボトルネックとなりネットワーク全体が遅くなってしまいます。
以下では宅内のパソコンからサーバまでの通信を表しています。パソコン1ではスイッチやルータまでは1Gbpsで接続できているのですが、インターネット回線が400Mbpsなので全体では最も遅い、400Mbpsの帯域幅となります。パソコン2ではインターネット回線よりも無線の方が遅いので、遅い方に合わせて全体では200Mbpsの帯域幅となります。
経験上、ネットワークが遅い場合はほとんどインターネット回線か無線LANが原因です。インターネット回線の中では様々なユーザが共同で利用する狭い経路があり、そこが詰まってしまう場合がよくあります。そのため、インターネット回線の選び方は重要となるのです。下記ではネットワークエンジニア視点でのインターネット回線の選び方を記載しているため良ければ参考にしてください。
無線LANが遅くなる原因は様々考えられますが、可能性が高いのは以下の2つでしょう。
- 無線電波が十分に届いていない
- 電波干渉が起こっている
1についてはWi-Fiルータの位置を変えることで改善できそうだということは想像がつくかと思います。ただ、2については目に見えないため専門的な知識がなければなかなか改善は難しいです。そのため、オンラインゲームやテレワークなどにより、速く、安定したネットワークを利用したい場合は無線LANよりも有線LANをおすすめします。有線LANと無線LANの比較は下記の記事で行っていますのでよければご参考にしてください。
まとめ
ネットワークの速さについて理解を深めることは、快適なインターネット環境を構築するために非常に重要です。本記事でネットワークの速さとは帯域幅のことであり、各ネットワーク機器やLANケーブル、インターネット回線種別が速さに直結することを解説しました。もし家のネットワークに不満がある方がいらっしゃれば、本記事を参考にこれらの見直しを行い、より快適なネットワーク環境を目指してみてください。