無線のローミング設定

中級者

大きい家にお住まいの方は複数のWi-Fiルータを設置されている方も多いのではないでしょうか。本記事では部屋を移動して、接続するWi-Fiルータが切り替わってもシームレスに無線接続切り替えができる、ローミングという技術について詳しく解説します。

まずはローミングについて

ローミングとは?

ローミングとは、Wi-Fi接続中に異なる無線アクセスポイント(AP)間を移動しても途切れることなく接続を維持できる技術です。ちなみに無線APとは、一般的にWi-Fiルータと呼ばれているものだと考えてください。

複数台の無線APが設置されている家をイメージしてください。リビングではリビング用の無線APが設置されており、部屋には部屋用の無線APが設置されています。

特に何も設定しない場合、リビングから部屋に移動する際、持っているスマートフォンが遠いリビングの無線APに接続したままとなり、通信が遅かったり不安定になってしまう可能性が高くなります。Wi-Fi設定画面から手動で部屋の無線APに切り替える手間も発生します。家の中を移動しながら友達や家族とテレビ通話を行っている場合は声が聞こえない、画面がうまく表示されていない、など様々なトラブルの種となってしまいます。

ローミング未設定時のイメージ

一方、ローミング設定をしっかり行っているとシームレスに無線APを切り替えることができるため、家の中を移動しながらネットワークを利用する際も、快適に利用することができます。

ローミング設定時のイメージ

どんな家で利用できるか

だいたいイメージがつくかと思いますが、ローミングが有効となるのは複数の無線APを設定している家です。例えば以下のような家で有効です:

  • 大きな家:広い家では、1台の無線APでは全域をカバーできないため、複数の無線APが必要です。
  • 障害物が多い家:壁や家具が多い環境では、電波が届きにくいため複数の無線APを配置してカバー範囲を広げます。

お家でのローミング実現方法

ローミングについて概要を理解したところで、次にどのような手順でローミングを実現できるのかをみていきましょう。上記ではローミングの良いところばかり挙げましたが、実はしっかり設計しないと様々なトラブルの原因となりかねません。

一般的に企業のネットワークでは、複数台の無線APを統括するコントローラーと呼ばれる機器を中心に、比較的手軽にローミング設定ができるのですが、家庭用の無線APではそういった機能は搭載されていないため、設計しながら各設定項目を決定していく必要があります。以下では家庭用の無線APにおける、ローミング実装時に考慮すべき点を挙げたので、一つ一つみていきましょう。

無線電波のカバレッジ調整

無線AP間のカバレッジが適度に重複するように配置します。カバレッジとは無線APの電波が届く範囲のことです。これにより、移動中の切り替えがスムーズに行われます。

大切なのはカバレッジを少しだけ重ねることです。重なりが大きすぎてしまうと、Wi-Fiに接続するデバイスがどっちの無線APに接続すればよいかを悩んでしまいます。この場合、接続する無線APが頻繁に切り替わってしまい、通信が切れる回数が多くなってしまいます。重なりが全く無ければ、移動するときに、全く無線電波が届かないエリアでWi-Fiが切れてしまう瞬間が発生してしまいます。

無線カバレッジ良くない例
無線カバレッジ良い例

次に無線電波のカバレッジを調整する方法をお伝えします。理想的なカバレッジに調整するためには、以下の2つの手法を用いるのがよいでしょう。

高い場所への設置

無線APを高い位置に設置することで、電波が遠くまで届きやすくなります。なんとなくイメージはつくかと思いますが、地面に置いていると障害物も多く、無線は遠くまで届きづらくなります。そのため、棚の上など、なるべく高い位置に無線APを置くことにより、より遠くまで電波を届けられます。

無線設置位置に関するイメージ図

ただし、こちらはなるべく遠くまで電波を届けさせる手法なので、逆にカバレッジの重なりが大きくなりすぎる可能性もあります。そこで、電波の届く範囲を小さくする方法が次の手法となります。

電波強度の調整

多くの無線APでは電波強度を設定から変更することが可能です。例えば100%の強度、50%の強度、などのように調整することができます。電波強度を小さくすることでカバレッジも小さくすることが可能です。電波強度を変更しながら家のサイズに合わせて、先ほどお伝えした通りカバレッジが大きすぎず、小さすぎずとなるように、微調整するのがよいでしょう。

ちなみに企業用の無線APでは、無線AP間で自動的にコミュニケーションを取って、電波状況を見ながら自動的に電波強度を調整してくれる機能を持っていることが多いです。

各無線APでの設定統一

すべての無線APでSSID、パスワード、セキュリティ設定を統一することは、ローミングをスムーズに行うために極めて重要です。この統一により、デバイスが異なる無線APに移動しても、同一のネットワークとして認識されるため、再接続の必要がなく、接続が途切れることを防ぎます。

SSIDの統一

SSID(ネットワーク名)は、すべての無線APで同じものに設定してください。SSIDはWindows PCやiPhoneなどでWi-Fiを探すときに一覧で表示されている、あの名前のことです。これにより、デバイスは別の無線APに移動した際も、自動的に同じネットワークに接続を続けることが可能です。異なるSSIDを設定してしまうと、デバイスはそれぞれのネットワークを異なるものとして認識し、手動での接続切り替えが必要になるため、利便性が低下します。

パスワードの統一

同一のパスワードをすべての無線APで使用することで、デバイスが再接続する際にパスワードの再入力を求められることなく、スムーズに接続を切り替えることができます。また、同じパスワードを設定することで、家族やゲストに対するWi-Fi利用の利便性も向上します。

セキュリティ設定の統一

すべての無線APで同じセキュリティ設定(例えばWPA2またはWPA3)を使用してください。異なるセキュリティプロトコルを設定すると、デバイスが移動中にセキュリティ要件が変わってしまい、接続が途切れたり、再度パスワードの入力が求められることがあります。

IPセグメントの統一

家庭で複数の無線APを利用する場合、無線AP間でIPアドレスセグメントが分かれていると、デバイスは新しいネットワークセグメントで新しいIPアドレスをDHCPで取得する必要があるため、再接続に時間がかかってしまいます。

すべての無線APを同じネットワークセグメント内に設定することで、デバイスが移動しても同じネットワーク内で接続が維持され、IPアドレスの再取得が不要になります。これにより、ローミング時のシームレスな接続が可能になります。

IPセグメント統一に関するイメージ

市販の無線AP(Wi-Fiルータ)でネットワークセグメントを設定する際は、光回線と接続する機器はルータモード、その他の無線APはブリッジモードに設定してください。ネットワークに詳しい方は理由がお分かりかと思いますが、複数の無線APでルータモードにしてしまうと、無線AP毎にネットワークセグメントが変わってしまうためです。

企業のネットワークでは、規模も大きく、VLANやDHCPの設定を通じて、より詳細にIPアドレスの割り当てを管理するため、ローミングにおけるこの設計は重要となります。しかし、家のネットワークではIPセグメントは分割せず、一つだけ利用されている方がほとんどです。そのため、意図的にネットワークセグメントを分割されている方以外は本設定はあまり気にしなくてよさそうです。

チャネル設定の最適化

無線APが近接している場合、異なる無線APで使用するチャネルを重ならないように設定することが望ましいです。これは電波干渉を防ぐためです。チャネルの概念は少し難しいので、多くの無線APで持つ、チャネル自動選択機能(Auto設定)を利用するのが良いでしょう。もちろん、無線に詳しい方は家の中の電波調査を行い、複数台の無線APに対して最適なチャネルを手動設定するのも良いと思います。

802.11k/r/vの有効化

無線APによっては、ローミングに関連する無線規格、Neighbor Report(802.11k)Fast Transition(802.11r)Wireless Network Management(802.11v)に対応している場合があります。これらの機能はローミングを円滑に行うために有効化しておくことが推奨されます。利用するためにはデバイス側でも対応しておく必要がありますが、利用可能な場合はとりあえず有効化しておきましょう。

ローミングアグレッシブネスの設定

これまでは無線AP側の設定方法ばかり説明してきましたが、無線接続は無線APとデバイス間の話なので、デバイス側でもローミングに関する設定が可能です。

一部のPCやデバイスでは、Wi-Fiのローミングアグレッシブネス設定を変更することが可能です。この設定は、デバイスがどの程度積極的に強い信号を持つ別の無線APに切り替えるかを決定します。下記の通り設定することがおすすめです。

  • 移動が多い場合:高いアグレッシブネス
  • 移動が少ない場合:低いアグレッシブネス
  • どちらでもない場合:中程度のアグレッシブネス

移動が多い場合は、デバイスが頻繁に場所を移動する際に弱い信号の無線APから強い信号の無線APに素早く切り替わることが求められるため、高いアグレッシブネス設定が推奨されます。これにより、近い無線APに接続し、ベストな信号強度を維持することが可能です。

対して移動が少ない場合は、同じ場所に長時間とどまることが多いため、低いアグレッシブネス設定が推奨されます。例えば部屋でテレビ電話をしている時に、特に移動していないのにリビングの無線APに切り替わってしまい、一瞬だけでも切断してしまっては困ります。アグレッシブネス設定を低にすることで、デバイスが同じ無線APに接続し続け、不要な切り替えによる接続の一時的な中断を避けることができます。

ほとんどのWindowsやAndroidでは設定可能です。ローミングによるトラブルが頻発する場合はぜひ設定することをおすすめします。

まとめ

無線LANのローミングは、家庭内で途切れないWi-Fi接続を提供するために非常に重要な技術です。適切な位置に無線APを設置し、無線APとデバイスを正しく設定することでとても快適なローミング環境を構築することができます。家庭内のネットワークを最適化して、ストレスのないインターネットライフを実現しましょう。

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