Wi-Fiルータの宣伝で「1201Mbps」や「4804Mbps」といった驚異的な速度を目にしたことはありませんか?実際にそれだけ速ければ無線ネットワークはとても快適なものになりますが、本当にそんな数字を出すことはできるのでしょうか。本記事ではWi-Fiルータの速度表示について深堀りしていきます。
Wi-Fiルータの速度表示は理論値
結論からお伝えしましょう。Wi-Fiルータの宣伝で目にする「1201Mbps」や「4804Mbps」といった速度表示は、Wi-Fiルータの理論上の最大速度です。これは、理想的な条件下でのみ達成できる速度であり、実際に家庭でパソコンやスマートフォンを接続し、この速度を実現することはほぼ不可能です。
もちろん本当に整った環境であれば実際にその速度を出すことはできるので、各ルータのメーカーが嘘をついていると言っているわけではありません。ただし、家のネットワークでも同じ速さを実現できるかと言われたらそういうわけではありません。
以下では、なぜこの超高速通信が実現できないのか、その理由について解説します。
理論値を実現できない4つの理由
1. ルータとデバイスの距離
Wi-Fiの速度は、ルータと接続するデバイスの距離に大きく影響されます。ルータに近いほど、より安定して高速な通信が可能です。ここにはQAMという無線技術の一つが大きく関わるのですが、深い話ですのでここでは割愛させていただきます。
理論上の最大速度を得たい場合、ルータとパソコンやスマートフォンなどのデバイスの距離は1m程度の距離に保つのがよいでしょう。しかし、実際には多くの家庭でルータは部屋の隅や別の部屋に置かれていることが多く、その距離や壁などの障害物が電波を弱め、速度低下の原因になります。
2. 電波干渉
Wi-Fiルータの速度に影響を与えるもう一つの要素は、電波干渉です。前提として、Wi-Fiルータの速度として宣伝されている理論値はチャネルボンディングという機能を最大限に利用することを前提に算出されています。チャネルボンディングについては以下の記事でも詳しく解説しているため良ければ参考にしてください。
チャネルボンディング機能は通信速度が向上する反面、周囲の他のWi-Fiルータや電子機器からの電波干渉が起こりやすくなってしまうという負の側面があります。電波干渉が起こってしまうと、通信が不安定になったり、速度が落ちる可能性が高くなります。特にマンションや都会の住居など、周囲に多くのWi-Fiネットワークがある環境では、この電波干渉の影響を受ける可能性が高くなります。
3. デバイス側のアンテナ数
少しイメージがしづらいかもしれませんが、無線通信のために実はWi-Fiルータとデバイスそれぞれにアンテナが内蔵されています。Wi-Fiの速度には、アンテナ数が重要な要素として関わってきます。
最近のWi-Fiルータは4本以上のアンテナを搭載していますが、接続するパソコンやスマートフォン側には2本のアンテナしか搭載されていないことがほとんどです。この場合、Wi-Fiルータ側はアンテナ4本分の通信速度を出すことができますが、デバイス側は2本分なので約半分の速度しか出せません。そのため、どれだけ高性能なルータを用意しても、端末側のアンテナが少なければ、理論値の速度を実現することはできないのです。
4. インターネット回線の速度
多くの人がWi-Fiを利用する目的はインターネットの利用です。つまりWi-Fiを通じて送信されたデータは必ずインターネット回線を経由します。ここで注意すべきはインターネット回線の速度です。
例えば理論上4Gbpsの速度が出るWi-Fiルータを購入したとしましょう。1Gbpsの光回線を契約している家でそのWi-Fiルータを利用する場合、4Gbpsの速度を出すことはできるでしょうか。答えはNoで、全体の通信速度は光回線の最高速度である1Gbpsに制限されてしまいます。イメージが湧きにくい方は以下の記事でネットワークの通信速度の決まり方について解説しているためよければこちらも参考にしてください。
インターネット回線の契約次第ではそこがボトルネックとなり、宣伝されているようなWi-Fiルータの理論値を出すことはできません。
性能のよいWi-Fiルータは不要なのか
ここまでで、理論値の速度の実現はとても困難だということがわかりましたが、それでは「高性能なWi-Fiルータは不要なのか?」という疑問が浮かぶかもしれません。結論から言うと、高性能なルータは依然として有用です。
もし、あなたの家に住む人が1、2人程度でWi-Fi接続するデバイスも少ないのであれば、低スペックなルータでも十分かもしれません。しかし、現代の家庭では、複数のデバイスが同時に接続されることが一般的です。スマートフォン、パソコン、テレビ、ゲーム機、さらにはスマート家電まで、これらすべてが同時に快適に動作するためには、高性能なルータが必要です。
ただし、高性能なルータを購入するだけではネットワークが速くなるわけではなく、前述の通り、ルータとデバイスの距離を調節したり、電波干渉をなるべく避けたり、インターネット回線を増強したり、といったことも合わせて実施する必要があるということも認識しておくとよいでしょう。
まとめ
Wi-Fiルータの速度表示はあくまで理論上の最大値であり、実際にその速度を家庭環境で実現するのは非常に難しいことを解説しました。今後Wi-Fiルータを購入する際は、宣伝されている通信速度を鵜呑みにせず、総合的に検討したうえで購入するよう心がけてください。